今年も10週間を切り、あっという間に10月も後半戦です。

蒸し暑い日は過去の話になり、昼間でも涼しい日が増えてきました、東京のフェルマータ工房です。

 

 

工房だより10回目は、ネックリセットについて。

 

楽器をやっている仲間・友人などの間で「指板が下がった」などの言葉が使われているのを聞いたことはありませんか?

結局のところ、指板が下がった楽器はどんな感じなのか、また指板が下がると楽器にどんな影響が出るのかをしっかりと理解できている演奏者は少ないのではと思います。

「下がると(下がるのは)良くないらしいことは分かるんだけど、、、」と言う方に、まずその影響についてイメージしやすい2つを書いてみようと思います。そのあとに、それを解消するための修理のようすを少し載せていきます。

 

最初に「指板が下がる」というのは言い換えると「ネックが起き上がっている」ことだと頭の片隅に置いておいてください。

では参りましょう。

 

 

 

その 峙櫃離侫蹈奪(毛箱)が楽器に当たりやすくなる」

 

ヴァイオリンのCバウツ(くびれ部分)に弓が当たって、表板を傷つけたりコーナー部分を欠けさせてしまうことがよくある場合は、指板下がりを疑ってみましょう。

え?どういうこと?と一見関係ないように思われるかもしれませんが、理由は次の通り。

 

指板が下がるので弦高が高くなる

  ↓

駒の上部を削って弦高を下げる

  ↓

駒の高さが低くなる

  ↓

表板からの弦の高さも低くなる

  ↓

弦の上を走る弓毛と表板の距離も縮まる

  ↓

フロッグが当たりやすくなる

 

ざっとこんな感じです。

拙い絵ですが、赤線がもともとの指板と駒・弦の位置関係で、黒線が指板が下がった状態を描いてみました。

表板と弦が近くなっているのがお分かりになりますでしょうか。

弓が当たってしまう理由が視覚的にイメージできると嬉しいのですが。

これが理由その,任靴拭

 

 

 

 

その◆岾擺錣本来持っている音を引き出せなくなる」

 

弦の張力は駒を介して表板へ圧力として伝わっていきます。この力が強すぎても弱すぎてもいけません。

圧が強ければ駒脚部分が凹むなど表板が変形してしまいますし、弱い場合は張りの無い音(お腹から声を出さず、口だけで出しているイメージ)になってしまいます。

 

その,脳匆陲靴真泙鬚發Π貪抔ていただきたいのですが、駒を削って対処する前と後では、駒を挟んで両側に張られている弦の角度は鈍角に変わっているのが分かりますか?

この角度が変わってしまうことでも、音への影響が出てきてしまうものなのです。

 

少し専門的になってしまいますが、この角度が広がると力学的には圧力が減ってしまうそうです。

荷重分散であったり、力学については私も専門ではありませんので詳しく全てを理解しているとは言いがたいですが、指板下がりを駒の高さで調整した楽器は、経験的にパワーや張りの無い音がするものが多いです。

直ぐに限界が見えてしまう、そんな感じです。

 

これは非常にもったいないと思いますし、張りがないと遠くまで音を飛ばすことは難しいですよね。

テンションの強い弦を張れば解消する、わけでもないのが弦楽器の不思議なところでもあります。

 

 

 

 

 

さて、,鉢△2つを紹介しましたが、ではこの指板下がりを解消する方法は、どんなものがあるのでしょう。

先に挙げている駒の高さを低くする方法はリーズナブルで時間も掛かりません、が、根本出来解決方法ではないことはもうお分りでしょう。

ネックと指板の間に△型のくさびを挟んだり、指板を交換するなどの方法でも対応できますが、今回はネックを一度ボディから外して、正しい角度でネックを差し込み直すネックリセットを選択しました。

 

 

取るべき方法の選択は、楽器の価値や状態をよく見極めて決定する必要があります。

経験がものをいうと思いますし、お客様(クライアント)ともしっかりと説明とご相談をさせていただきたいところです。

予算や修理期間も大きく変わってくる部分ですので。

 

今回も、それぞれの方法の詳細(メリットやデメリット)を説明させていただき、ネックリセットに着手することになりました。

 

 

 

 

ネックを外したところ。

こんなに隙間があると、ネックは起き上がってきてしまいますね。

 

 

 

 

 

 

一旦、そのほぞ穴を綺麗に整え直します。

オリジナルを最大限残しながら、全ての面を平面出しします。

 

 

 

 

 

 

次に、ほぞ穴を材で埋めなおします。

これが新たなブロック材になります。

隙間が無いように全面がピタッと合うように材を滑り込ませてゆきます。

 

 

 

 

 

 

ネック側はヒール部分に足し木をします。

ネック材の年輪の向き・幅、繊維・放射組織の方向を合わせて加工し接着します。

 

 

 

 

 

 

 

先程のブロック材を削って、新たなほぞ穴を成形していきます。

このほぞ穴はネックのヒール部分の形と全く同じ形になるようにしなければなしません。

 

それに加えて、

1.ネックがボディに対して真っ直ぐ入ること

2.ネックが回転・捻じれて入らないこと

3.ネックの長さが変わらないこと

4.ネックの差し込み角度が適切であること

5.ボディの中央にネックが入ること

6.ネックの飛び出し部分(指板と表板の間隔)が規定値内であること

などを全てクリアする必要があります。

 

一番神経を使いますが、最高に楽しいところでもあります。

 

 

 

 

 

 

加工上がりがこちら。

ピタッと全てのと隙間と数値が合う瞬間がたまりません。

 

ヒール部分に追加した足し木が△型をしているのが分かると思います。

この分だけ、ネックの角度が増した(元に戻った)という訳です。

 

このあと接着をして、足し木の余計なはみ出しを整え、ニスの色合わせをしたらネックリセットは完成です。

ネックの角度が増したので、ここから駒を作り直してなど、もう少し工程はありますがセットアップを完了して、お客様のもとへ帰って行きました。

 

仕上がり前と後の音の変化ですが、もう明らかです。

パワーや反応などが段違いに上がった、というよりはこれが楽器の本来の姿なのだと思います。

 

最後の写真のように、たったこれだけの角度なんですが、音には大きく影響するんですね。

以前はあったネックとボディの接着面の隙間が無くなったことも、振動を阻害しないことに一役買ってくれているのではないかと思います。

 

 

今回は長くなってしまいましたが、工房だより10回目はネックリセットについてでした。

指板が下がったから、必ずネックリセットをという訳ではありません。

もしその判断がつかないようでしたら、是非フェルマータ工房、またはお近くの工房へ点検や相談に訪れてみてください。

 

皆様のお越しをお待ちしております。

 

 

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